山行を始めて未だ日が浅いころ、2月の安達太良山に登ろうとの誘いに乗って出かけた。夏山の安達太良山には2度ほど上った経験があったが、降雪期は初めてであった。リーダーは同期同窓のKr氏で6人のパーティーで出かけた。車で奥岳駐車場まで行き途中勢至平の分岐付近で雪道の歩き方などの指導を受けながら、くろがね小屋を目指した。深い雪の中のくろがね小屋は谷へ落ちそうな形に見えた。
積雪期でもありくろがね小屋は宿泊客は少なかった。我々の他は新潟のパーティーのみであった。食後順次風呂へ入った。白濁した湯は温泉であり、肌がすべすべするいわゆる美人の湯である。そのため板敷の床がつるつるで滑りやすく、戸や壁、湯船の縁につかまりながら歩かなければならなかった。そこで同行のTm氏がすべって転倒してしまった。翌朝、彼が頭から血出るのを絆創膏で手当てしていたので、リーダーのKr氏は登頂を止めると言い出した。Tm氏は山のベテランで、自分のせいで登頂を断念することはできない。傷は問題ないと言い張り、小屋の前へ飛び出していった。
Kr氏はやむなく出発を決めた。歩き始めて暫く経つと明るかった空が曇り始め行きが降り始めた。それでも上っているとついに吹雪はじめ、次第に風が強くなってきた。更に行くと周りがみえなくなった。いわゆるホワイトアウトである。立ち止まって地図を見ようと広げたところ吹っ飛んでしまった。パーティーのメンバーともはぐれてしまったようで声が聞こえなかった。とにかく安達太良山~鉄山~箕輪山に至る尾根を越えなければ危険な領域には入らないと考え前へ進んだ。
やがて吹雪が収まり周囲を見渡すと、そこは矢筈の森の傍であった。安達太良山の頂上からかなり右に来てしまったことになる。その後パーティーのメンバーと合流し登頂を果たすことができた。ホワイトアウトは人間の方向感覚を迷わせるということを体験させられた山行であった。