「陸軍工兵大尉の日中・大東亜戦時代」を読んで
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 先般山行仲間の会合が有り、先輩のE氏から父の遺稿をまとめて本にして出版したので読んで欲しいと標記の本を頂いた。本はA5版、269頁の大作である。父上が74歳頃に大正10年に入隊してから敗戦後の日本を見るまでの出来事を思い出して綴られた原稿を5人の兄弟で分担し三男のE氏が中心になってまとめられたものである。

 工兵は裏方で戦後も本に書かれることもなく、実態は殆ど知られていない。私の記憶では早川雪洲が主演した映画「戦場にかける橋」位しかない。この本は、現地で戦争に参加した兵士の体験が生々しく綴られている。ただ、昭和51年に書かれた原稿を子供であるE氏が兄弟と共に現地を訪ねるなど史実を確かめながらまとめられたもので、平成10(1998)年頃に着手し平成25(2013)年にようやく出版されたものである。現在では戦争中を懐かしく思い出す人も少なくなり、本は売れ残ったとのことで拝領したものである。

 工兵と言え戦場では専門バカでは居られず、戦う様子が日記のごとく書かれている。
 中支(中部支那)での大河の渡河作戦、住民の宣撫、フイリッピン上陸作戦、敵の攻撃下での石油を求めてのジャワ島上陸作戦などに従事された様子は鮮明に書かれている。特に油田復旧作戦などは部品も物資も無い中での苦心が描かれている。戦時下における若者の気持ちや、軍国主義の時代における軍人の心意気が日記のように書かれており、戦争とはかくもひどいものであることを忘れないためにも時に紙上体験することも無駄ではないなと思った。
 E氏の緻密な性格が大作を完成し得た賜であると思う。

【原稿】遠藤千代造 【編者】遠藤 桓(ひさし) 元就出版社刊