山崎豊子全集を読んで

【山崎豊子全集 全23巻中第1巻~第5巻】 山崎豊子著 新潮社
新潮社版山崎豊子全集は全23巻からなる。その内「白い巨塔」(3巻)「華麗なる一族」(2巻)「不毛地帯」(4巻)「二つの祖国」(3巻)「大地の子」(2巻)「沈まぬ太陽」(3巻)という超長編とも言える小説が17巻を占めている。これらの長編は以前読んだことが有り、最近思い立って1~5巻を日立市南部図書館で読んだ。この5巻は大阪の船場や地域の旧家の女性や旦那の因習に縛られた生き方を描いた創作である。モデルと言われる人がいるものもあるが、創作の部分が多いことは言うまでも無い。
登場人物の心理描写や習慣に従う生き様など作家の想像力に感嘆するばかりである。

暖簾・花のれん〕
吉本興業の創業者「吉本せい」をモデルに、大阪商人の失敗を恐れずに成長して行く生き様を描いている。
大阪堀江中通りの米屋の次女多加は、呉服問屋河島屋に嫁ぐ。二代目の店主となった夫が道楽で身を持ち崩し、更に相場に   手を出し河島屋の身代を潰してしまう。
多加の発案で、夫の道楽を生かし芝居小屋の経営に乗り出す。多加がひやし飴を売り出す等改革に努め、次第に人気を得て    色物を主に芝居小屋を経営していたが、夫の死後一心不乱に商売に励み一流の落語の師匠に高座に出て貰える寄席小屋を   手に入れる。商売熱心で次第に寄席を増やし成功する物語である。

ぼんち〕
老舗の足袋卸問屋の後継者、喜久治の話である。女系家族の中の1人息子として生まれ、若くして結婚し、子供が出来たところ   で離婚した。養子婿であった父が家付娘の妻や義母に遠慮しながら1人の妾を囲っていたのを知り、その惨めな生き方に反発   を覚え、次第に芸者遊びを覚え次々と芸者を退かせ4人の妾を囲う。仕来り通りの妾のお披露目をし、その後も芸者遊びで散    財する生活を送る。戦時下でも自宅が戦災に遭遇した後も、妾の面倒を見てきちんと始末し人生の帳尻を合わせると言う、大    阪のいわゆる「ぼんぼん」ではなく敬意を込めて「ぼんち」と呼ばれた男の生き様を描いている。

女の勲章
大阪船場の老舗の後継ぎ娘大庭式子が、老舗を親戚に譲り、デザイナーになり弟子3人と共に洋裁学校を始める。とある縁で   知り合った八代銀四郎にマネージメントを任せ、次々に事業を拡大してゆく。その過程で、銀四郎は弟子達の出世欲と金銭欲を   操りそれぞれと肉体関係をもち、それを武器に自分の事業拡大意欲を満足させてゆく。式子は銀四郎の手に乗り事業を拡大す   る中で銀四郎と肉体関係を持ってしまう。
一方で銀四郎の友人を通し、銀四郎の恩師であるフランス文学者の大学教授を知りその人柄に惹かれてゆく。銀四郎の作戦で   、パリの有名なファッションデザイナーの型紙を購入する権利を手に入れる契約の場面で齟齬が起きる。その窮地を銀四郎の   大学時代の恩師に救われる。大学教授の人柄に抱いた敬愛の念が愛情に変わり、式子の心は大学教授に傾倒し肉体関係を   持ってしまう。日本でのファッションショーを大成功させるが、過去に肉体関係を持った銀四郎と大学教授の間に挟まれ身動き    が出来なくなってしまい自死を選ぶ。

〔女系家族〕
谷崎潤一郎の「細雪」を思い起こさせる、船場の老舗の三姉妹の遺産相続を巡る葛藤を描いた物語である。船場の老舗では、   能力のある番頭などを娘の婿に取り後継者とし事業継続を図ることが多い。養子婿は、店の事業は一切任されるが、妻や義母   の浪費癖には一切口出しはしない。
遺産相続に当たりそれぞれに思惑が交錯する。大番頭にも隠した蓄財がある。養子婿の主人が亡くなった後の遺産分けを巡る   葛藤と、どんでん返しが読みどころである。

〔花紋〕
河内長野の五十町歩大地主葛城家の総領娘葛城郁子(歌人御室みやじ)の数奇な運命に翻弄される誇り高い生き様を、葛城   郁子に生涯召使いとして仕えた「よし」の語りと、寡作の歌人の没年の記録に疑問を持った私の探究心が御室みやじと歌人荻    原秀玲の関係性から解き明かされる。
歌人荻原秀玲に心を奪われながらも、旧家の総領娘の立場で祖父の臨終の床での懇願により心ならずも地域の地主の息子を   養子婿に迎えてしまう。因習に縛られる人生の中に古今の情緒を残す和歌に生きがいを見つけて生きる誇り高い生き様は、現   代の自分からは異次元の世界である。

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