山本 健人著 ダイヤモンド社刊
前回 第1章「人体はよくできている」で、人体のしくみについて解説されていたが、今回は、病気についての解説である。
第2章 人はなぜ病気になるのか
人は何が原因で命を落とすのか:かって世界で最も多くの命を奪っていたのは感染症だった。感染症による死亡が激減したのは、抗菌薬などの治療やワクチンなどの予防薬の普及、衛生環境の改善によるものだ。
「がんが死因」が増えた意外な理由:がんは圧倒的に「高齢者に多い病気」だ。がんは、遺伝子に何らかの異常が起き、正常な細胞ががん細胞に変わりこれが無秩序に増殖したものだ。医療の進歩によって人体が「長持ち」する様になったおかげで、相対的にがんで死亡する割合が増えたのだ。がんによる死亡率が年々増えるのは、高齢者の割合が増えるためだ。
がんに次いで死因の上位を占めるのは「心疾患と脳血管疾患」である。これらでなくなる人の大部分は生活習慣病が背景にある。
人が死ぬ最大の要因は・・・:人が死ぬ大きな原因に「加齢」がある。現在、死因の上位には老衰と肺炎がある。これらは加齢が主な原因である。年齢と共に呼吸器の機能が落ちて肺炎になりやすくなる上、肺炎にかかった後も抵抗力の低さ故に致命的になりやすい。また、食べたものが気道に入って起こる「誤嚥性肺炎」を起しやすい。
ざっくり表現すると「今の日本人の多くは、がんか生活習慣病か加齢で亡くなる」といえる。
15歳から39歳の死因の第1位は「自殺」である。年代毎に特徴を理解すべきである。
病気と健康の境目はどこにある:「細菌がいるかいないか」が「病気か健康か」を決めるのではない。細菌が体に何らかの不具合を起こしたとき、初めて病気と呼ぶことができる。病気が「治った」ことと「体に細菌がいなくなった」ことは同義ではない。「細菌はいるが病気は起こしてはいない状態」なら「治った」といえる。新型コロナウイルス感染症の診断に、PCR検査が良く用いられる。そのため、PCR検査の結果によって「病気か病気でないか」を判断できると考える人は多いが、そうではない。PCR検査でわかるのは「ウイルスの断片が存在するか否か」であって、「病気か否か」ではないからだ。
「がん」か否か:「がん細胞が体にある状態」は「がん」という病気ではない。がん細胞が増殖し、周囲の臓器を破壊するなどして、命をおびやかすポテンシャルを持ったとき病気と見なされ、医療が介入する。
「リスク因子」の発見:1948年に始まったボストン郊外のフラミンガム町の住人5000人以上の追跡調査を行った「フラミンガム研究」により「リスク因子」という概念が生み出され、高血圧や脂質異常症、高血糖などのリスクに対し、多くの治療薬が生み出され、歴史上の大きなターニングポイントになった。「フラミンガム研究」は今も続いている。疫学調査は、「何が悪いか」「何をなすべきか」を統計学的に高い確度を持って導き出す。
免疫は「自己」と「非自己」を見分ける:私たちは、おびただしい数の細菌やウイルス、真菌と共生している。これが即座に病気に繋がらないのは、免疫の力によってその活動が抑制されているからである。免疫とは、私たちの体に侵入する微生物などの異物を排除する力のことである。免疫と言うシステムは「自己」と「非自己」を見分け、「非自己」と見なしたものだけを攻撃する機能が備わっている。
免疫は大きく分けて2つの方法で敵と戦う。
「自然免疫」:生まれつき備わっている機能で、侵入した敵を最前線で直接攻撃(白血球)
「獲得免疫」:一度出会った敵の形を記憶し、その相手に高価のある攻撃をする(リンパ球)
ワクチンの仕組み:細菌やウイルスの毒性を失わせたものや、特別な処理を加えて病原性をなくしたもの、毒素を取り出して無害化したものなどを体に注入し、その特徴を体に記憶させる。
アレルギーが起こる理由
無害な相手を敵と見なす:私たちの体には、口から入って消化管を通る「異物」には反応しないよう、免疫を抑制する仕組みがある(経口免疫寛容)。一方、食べ物に対し、経口免疫寛容が上手く行かずに免疫が反応してしまう現象がアレルギーである。
免疫が誤作動を起こす病気:自分の体を異物と誤認し、攻撃を加えてしまう病気(自己免疫疾患)である。
たとえば、関節リュウマチ(関節の滑膜などに攻撃を加える)、一型糖尿病(膵臓のインスリンを産生する細胞を破壊)、橋本病(甲状腺が攻撃される)、シューグレン症候群(涙腺や唾液腺を攻撃)。これらは古典的に「膠原病」と総称されていたものである。
がんと免疫の深い関わり:近年、がんが免疫の攻撃をすり抜けて増殖する仕組みの一つが明らかになった。がん細胞表面のPDーL1という分子を免疫細胞のPD-1と結合させ、免疫の攻撃にブレーキを掛けていることがわかり、2014年このブレーキを解除する薬が開発された。がん治療において手術、化学療法、放射線治療に次ぐ「第四のがん治療」と呼ばれる迄になった。このしくみを発見した本庶佑氏等は2018年ノーベル賞を受賞した。
がんと遺伝子:この項は、専門的な解説が多いので省略する。
以下は、興味深い記事が多いが、人体の仕組みから外れるので、省略する。
第3章 大発見の医学史
第4章 あなたの知らない健康の常識
第5章 教養としての現代医療