本「すばらしい人体」(5)
「すばらしい人体~あなたの体をめぐる知的冒険~」

山本 健人著 ダイヤモンド社刊

第4章        あなたの知らない健康の常識

自分の血液型を知る必要はない

血液型申告の不思議:日本では日常生活の至る所で血液型の申告を求められるが、血液型は違う型のものを使うと命に関わる重篤な反応を起こすので、患者の申告に頼らず、必ず試験を行うので本人は知る必要はない。

たくさんある血液型1900年オーストリアのカール・ラントシュタイナーが血液に型があることを発見するまで、不適合輸血による事故が多発していた。当初A,B,C3種類、その後AB型が発見された。血液型は赤血球の表面にある抗原の種類のことである。C型には抗原がないので0を意味するO型となった。

Rhにも約40種類を超える抗原がある。D抗原がある場合をRhプラス、ない場合をRhマイナスと称する。血液型には他にも多くの分類がある。

最強の猛毒ポツリヌス

極めて強力な神経毒ポツリヌス菌が作り出すポツリヌス毒素は極めて強力な神経毒だ。大人の大腸では他の細菌に負け、大きな問題は起こらないが、腸内環境が未熟な乳児では腸内で繁殖し重篤な症状を起こす。

自然界に存在する猛毒50%致死量(動物に投与した場合に半数が死亡する量(㎍/kg)で小さいほど毒性が強い)ポツリヌス菌は最強で0.0003に対し、フグ10、サリン420、青酸カリ10,000である。

 生肉についての誤解:新鮮な肉は食べてもあたらないと言うのは誤解だ。動物の肉は十分に加熱しない限り必ずあたるリスクがある。理由は、牛や豚、鶏などの家畜の腸内に沢山の細菌が生息しており、食肉加工場で加工する際、それが食肉の表面に付着することによるものだ。

食中毒を予防する方法多くの病原体は75℃で1分以上の加熱で死滅するため、肉の中心部までしっかり加熱する事が大切。持ち帰ったらすぐに冷蔵保存すること。生肉を切った包丁やまな板は必ず洗うことを心がける。

 誰にでも起こりうるエコノミークラス症候群

血栓が肺に詰まる:エコノミークラス症候群とは飛行機の座席などで長時間じっと座っていると、足の静脈の血液が淀んで血栓ができ、立ち上がった際に血栓が飛び肺の血管を詰まらせると言うメカニズムで起こる病気だ。肺の動脈が詰まると肺の血流が維持出来なくなり、ガス交換が妨げられる。肺の痛み、息切れ、動悸などの症状が現れ、失神する事もある。太い血動脈の根本に詰まると急性の心不全に陥って急死する事もある。

 

擦り傷の正解

消毒液は疵の治りを悪くする近年は、消毒液が疵の治りを悪くすることが分かり、病院で縫う必要がある深い傷でなければ、水道水でしっかり洗い砂や泥などの異物を丁寧に洗い流すだけで十分である。消毒した瞬間には細菌を死滅させられても、その後に周囲の細菌が疵に入り込む事までは防げない。軽い傷なら抗菌薬使用しないのが一般的だ。

うがいの効果は限定的かってはヨード液などのうがい薬で風邪を予防出来ると考えられていた。だが近年は水道水のうがいで十分であり、むしろ水道水の方が風邪の予防には有効というのが当たり前になっている。

コロナ対策で「手洗い、マスク、三密回避」が言われるが、うがいはない。うがいをすればのどに付着した病原体を洗い流す事は可能かも知れないが、次の瞬間に目の前から飛んで来た飛沫を吸い込めば、うがいの効果はなくなる。感染対策としてうがいの優先順位が高くない理由だ。

 

第5章        教養としての現代医療

体温はすごい体温の変化幅は平熱に対して23℃である。これは哺乳類など恒温動物の持つ「恒常性」の一つだ。脳の視床下部に体温調節中枢があり、ここが定める「セットポイント」に合うように体温は絶えず調節される。暑いときは汗をかいて熱の放散を促し、寒いときは筋肉のふるえ等で熱を産生すると同時に血管が収縮して熱が逃げるのを防ぐのだ。

風邪を引いたときなど体に炎症が起きるとセットポイントが高く設定される。この状態が発熱だ。免疫機能を活発に働かせるための仕組みである。セットポイントが上がったときに体を冷やしても体温は下がらない。セットポイントを下げるのが解熱剤である。

熱中症などは発熱と違い高体温症で体を冷やすことが有効だ。

体温計はどのようにして生まれたか17世紀初頭まで、人間の温度に「正常な範囲」が存在する事は知られていなかった。これを発見したのがイタリアの医師サントーリオ・サントーリオである。温度によって水や空気が膨張する現象を利用して温度計の原型を作ったのはガリレオ・ガリレイで16世紀末の事だった。その技術を応用し目盛りの付いた温度を測定出来る機器を作ったのだ。

今の医療現場では、体温の測定は全ての患者に対して行われる最も重要な医療行為一つである。一般的には脇の下で、より正確な測定をしたいときは、口の中や肛門に体温計を挿入する(深部体温)。またサントーリオは「不感蒸泄」も発見した。目に見えない水分の喪失が成人一日あたり700900mlにも及ぶことを、自身の体重、食量の記録から気付いたものである。

 

体の中をのぞき見る技術

透視する光線1895年ドイツの物理学者ウイルヘルム・レントゲンは「陰極線」の実験中、物質を透過する光線に気付いた。様々な実験で、手をかざしたとき自分の手の骨が映し出された。名前のないこの光線をX線と名付けた。

X線は乳がんを見分ける方法、造影剤を使って胃や腸の内壁を見る方法、血管内に入れる造影剤の開発により脳や心臓の血管の異常を確認できる様になった。

体の断面を見る技術:1970年代X線を用いた技術は進化し、コンピューター断層撮影(CT)と言う技術によって体の断面図が立体的に観察できる様になった。CTは人体の周囲を高速回転する装置からX線を照射し、その結果をコンピューターで解析し画像を再構成する手法で、体の断面図が表示出来るのだ。

CTよりMRI」は誤解X線を遣う検査の欠点は、放射線の被曝があることだ。医療現場では放射線を使わない画像検査もある。一つは超音波検査である。体の表面から超音波を送り、その反響を映像化するものだ。もう一つは磁気共鳴画像法(MRI)である。磁場を利用し、水分含有量の違いによってコントラストを付ける手法だ。CTMRIはコントラストの付け方が異なるため、画像は全く異なる。CTは数分で終わるが、MRI3040分ほどかかる。疾患、臓器などの得意分野が異なるものだ。

 

聴診器の2つの音

聴診器の発明診察の代表的な手法は、視診、聴診、触診、打診の四つである。聴診は診察室で最もよく見る光景だ。聴診は古代ギリシャから行われていたが、19世紀に聴診器が発明されるまでは、患者の胸に直接耳を当てその音を聞いていた。

聴診器を発明したのはフランスの医師ルネ・ラエネックである。女性の心臓の診察をするのに、胸に頭を密着させることに抵抗を感じ、紙で作った筒を使ったのがはじまりだ。聴診音の性質と解剖後の病気とを結びつけて「間接聴診法」を公表した。

死亡確認に必要なこと聴診で聴くのは心音と肺音であり、それぞれ聴診器を当てる部位も決まっている。現場の診察では患者それぞれの病状に応じてカスタマイズし適切に緩急を付けている。

死亡確認の際は、聴診器で肺音、心音が聞こえない事を確認し、次いでペンライトで瞳孔を確認する。

アントーベンの三角形体表面から心臓の活動を確認する方法としては心電図も良く用いられる。心筋内を走る電気信号を体表面から測定し、波形として表示したものが心電図だ。手足と胸の表面に10個の電極を装着し、12種類のベクトルで電気活動を計測する。

心電図が実用化されたのは20世紀に入ってからだ。1903年オランダのアントホーフエンが心電図の測定法を初めて発表し広く用いられるようになった。

左右の手と左足の電極で形作られる三角形は、今もアントーベンの三角形と呼ばれている。

 

日本人が発明した画期的な医療機器

赤血球とへモクロビン:私たちの体を構成する臓器は酸素が常に供給されていないと働けない。酸素はどのようにして外界から取り入れているのか。先ず、呼吸によって口から取り込まれた空気が肺に到達する。空気中の酸素は細い血管の中に入り込む。血液は全身にくまなく流れ、各臓器に酸素が供給される仕組みだ。

この酸素の運搬を担う細胞が赤血球だ。赤血球中に含まれるヘモクロビンが酸素と結合したり離れたりする事で各所に酸素を届けるのである。

では酸素がどれくらい足りないかをどのように知れば良いだろうか。採血をすれば血液中の酸素飽和度を計測できる。この方法は採血した瞬間の状態しか分からない。病状は刻一刻と変化する。血圧や脈拍、体温と同じように体に傷を付けることなく酸素飽和度を知ることは出来ないか?その難題に取り組んだ日本人がいた。

歴史に残る偉業日本光電に勤めていた青木卓雄は「パルスオキシメータ」の生みの親である。青柳が注目したのは酸素化ヘモクロビンと脱酸素化へもクロビンで「紅い色の光を吸収する度合い」が違う事である。酸素を多く含む血液は鮮やかな赤色に、酸素の少ない血液は暗い色に見える。パルスオキシメータはこの吸光性の差(赤みの差)を皮膚の表面から観測できるのである。パルスオキシメータを指先に着けると酸素飽和度の推定値を「%」で瞬時に産出してくれる驚異的な利便性である。

 

穴を開けて行う手術

へそに穴を開けても大丈夫実は私たちの体内には、へそと肝臓、へそと膀胱を繋ぐ管の名残がある。「肝円索」「正中臍索」と呼ばれる。実際には「取られても構わない」構造物である。へそは元々腹腔の中と外が繋がる出入り口だったので、硬い筋肉や筋膜が部分的に欠損している。従って元々壁が薄く腹腔内に安全に到達しやすい。そのため手術で最初に穴を開ける荷は最適なのである。

一般的な腹腔鏡手術では、先ずへそに穴を開けトロッカと呼ばれる筒状の危惧を挿入し、そこからカメラを入れる。お腹の中を観察しながら、他にもいくつかの小さな穴を開けトロッカを挿入する。

カメラで映した映像を見ながらマジックハンドの様な器具を使ってお腹の中を手術すると言う仕組みである。カメラの先端には強い光線が付いているので、手術が可能になる。今まで見えにくかった奥の方にもカメラが入り込み、クリアな視野を術者に提供出来る。腹腔鏡や胸腔鏡などカメラを挿入して行う手術を総称して「内視鏡手術」と言う。世界で初めて内視鏡手術が行われたのは1980年である。

ロボットが手術する?:手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」はアメリカのインティユィティブサージカル社によって開発され、1999年に販売が開始された。ロボット手術は内視鏡手術の一形態である。「鉗子」をロボットアームが持ち、これを人間が操縦する事で内視鏡手術を行う。カメラを持つのも勿論ロボットアームである。

「ロボット手術」というと「手術ロボットが手術してくれる」というのは誤解だ。利点は、鉗子に関節が付いているので体内の深いところで自由度の高い動きが出来る、座ったまま操作できるため術者の疲労が軽い、3D映像を見られる事で肉眼に近い視野が得られる、手を5㎝動かせばロボットアームが1㎝動くと言う「モーションスケール」で細かい操作がしやすい、等である。

世界最初の胃カメラ生きた人間の胃の中を初めて覗き見られたのは1868年である。ドイツの医師アドルフ・マクスウエルが剣を飲み込む大道芸人を相手に試した。この時遣われたのは直線的な金属管である。

世界初の胃カメラを開発したのは、日本のオリンパス社である。1952年の事だ。この時点では静止画の撮影しか出来なかったが、本体はフレキシブルで曲げることが出来た。1960年代にグラスファイバーによって、リアルタイムで胃の中を観察出来るようになった。

近年は単に観察するだけだった胃カメラや大腸カメラを使い、ごく初期の胃がんや大腸がんを削り取る治療が広く普及した。

 

私が興味深いと思った部分の抄録は以上で終わりとする。

原本には図解があり、理解しやすいので、興味あ:る方は、原本を読むことをお薦めする。


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